:子供をもつ動機

ドラマ「瑠璃の島」の第五話のなかに、つぎのような台詞が出てくる:「好きな人の子供だから、このお腹の子を産みたい」のだと。当事者カップルの男性側は、その会話の時点では出産にも──そして認知・結婚にも──積極的ではない。劇中、井川遙演じるこの女性の台詞は言わば、相手との関係をこれからも繋ぎとめようとするための悲痛な叫びとして発せられていた。
好きな人の子供だから──。これは、子供をもつ理由として、どの程度「自然」なものなのだろうか、あるいは、自然な動機であると人々に感覚されているのだろうか?

理想的な子どもの数を1人以上と答えた人に、なぜ子どもを持つことが理想なのかをたずねたところ、下のような解答が得られたという。
Source:結婚と出産に関する全国調査 夫婦調査の結果概要 By国立社会保障・人口問題研究所

  1. どの年齢層でもほぼ8割の人が「子どもがいると生活が楽しく豊かになるから」と回答
  2. 「結婚して子どもを持つことは自然なことだから」は年齢が高いほど多く回答されている
  3. 若い層ではそれに代わって「好きな人の子どもを持ちたいから」が多く回答されている
  4. 「子どもは老後の支えになるから」は若い層ほど多い

この調査結果が一見奇妙なのは、「好きな人の子をもちたい」という回答──これは、打算的な利害を抜きにした純愛の論理そのものの表出に思える──と、「老後の支えとしての子供」という功利的動機による回答とが、どちらも若年層においてもっとも多いということではないだろうか。
年齢別のグループでは

25歳未満 61%
25−29歳 53%
30−34歳 44%
35−39歳 38%

の回答者が、「好きな人の子」という理由で子供を設けたいと思っている。「老後のささえとしての子供」という回答は、25歳未満の24%をピークに、ほぼ2%ずつ減少した割合で高年齢グループでの回答が得られている。
前者の割合の減少傾向が後者のそれより劇的であるのは、後者の、功利的老後の支えとしての子供の存在理由のほうが、より、「ホンネ」に近い心情であることを意味してはいないだろうか? もちろん、厳密な統計学の推論としては、母集団が厳密に一致しない年代グループ間の数値推移からの予測には限界があることは認めるが、「生活が楽しくなる」という理由を挙げて子供を希望する割合が全世代を通じて80%前後であることに鑑みるならば、ある程度の集団心理のホンネとタテマエを当て推量することも可能なのではないだろうか?