ローマ帝国【3】:子供がいないと不利になる制度設計

Source:日経新聞 2005年1月1日

以下、前回に引き続いてローマ帝国の人口政策について:

  • 女性一人が産むのは五人程度
  • 指導者層の間では、共和政期から産みたがらない者が増えていた
  • 戸口調査では「子供を持つために結婚したか」と念押ししていた
  • アウグストゥスの「ユリニウス二法」:
    • 不義密通を禁じ、正式に結婚して子を作ることを義務付けた
    • 男性は25-60歳、女性は20-50歳に婚姻状態にあるよう定める
  • 夫が先立った場合、通常は妻が財産を相続するが、子供がいなければ十分の一に削減、残りを没収した
  • 子供が多い男性は元老院での発言権が強いなどの特権を与えられた
  • 国境近くでは外国人兵士とローマ市民女性との間に子供が生まれることも多かった:その場合、子供もローマ市民権を継ぐことができた

つまりローマは、その人口を増やすための基本的な政策をすべて押さえていたことになる:一般に、市民権(/国籍)の属地主義を採用すれば、その地で生まれた子供は血統に関係なくその国の民となるわけだ。
さらにローマは、子供を養育する父母へのアファーマティブアクションとでも言える政策を徹底させている。今日の日本であれば、「子を産まない自由」や「個々人のライフスタイルとの両立可能性」の論点を持ち出すことで相殺されてしまいがちな積極的差別を、ローマは政策として展開しているのだ。
こうした、「子を持つ意思のある者への優遇」は、現代社会にも応用できるものだろうか?確実に言えることは、この施策を素朴にそのまま導入したならば、「差別」を糾弾する猛烈な反対の声があがるだろうということである。ならば、そうした独身主義者や子をもたないカップルたちにも、「別な」優遇策を提示してはどうだろうか?
その際に肝要なことは、前者の享受するメリットと、後者の享受するそれとのバランスを保つことである。つまり:

  • 子を持つ意思のある者への優遇【A】
  • 独身主義者・子を持たないカップルへの保障【B】

このふたつのあいだに、
【A】≧【B】
が成り立つような社会的雰囲気を醸成することさえできれば、──人が合理的判断をするという前提に基づくなら──出生率は上向きに転じるはずである。